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内藤邦雄の「mid NAITO cafe ~ミッド ナイト カフェ~」

サンタクロース

10数年前、30歳ちょっと前のボクは、年末業務に追われる営業マン。
仲間とともに、目標数字をめざし残業の日々。

そう、今日という日がクリスマスイブということは分かっていたけれども、とても普通の時間には帰れそうにない。
その年、ボクたち夫婦が移り住んだこの街は、公団の大きな団地が駅前まで迫る絵に描いたようなベッドタウン。
夜 9時50分、地元駅到着。
よろよろのコートと緩めたネクタイのボクは、最近できたばかりの花屋に向かう。
クリスマスイブのこの日、妻にせめてものプレゼントと罪滅ぼしの気持ちで花束を買おうと思った。

「スミマセン」とボク。
「いらっしゃいませ」と人のよさそうなご主人。
「フリージアはありますか?」

フリージアは、妻が大好きな冬の花。
クリスマスは少しだけ、季節が早いのだけれども、前の地元にはいつも置いていた花屋があった。
あるかな?ないかな?わずかな希望を胸にたずねる。

「フリージアの花束できますか?」
「・・・・・フリージアですか。。。」
しばし絶句の後、ご主人は続ける。
「申し訳ございません。フリージアは入荷してないんです。少しだけ季節が早いんですよね。」
「そうですか。。。しかたないですね。」
「他の花ではいけませんか?」
「フリージアは、妻が好きなんですよね。」とボク。
その人のよさそうなご主人は「申し訳ございません」ともう一度深々と頭を下げる。
「いや、いいんです。」と、ボクは、ちょっと恐縮しながら、店をでる。

そういえば、駅前のスーパーにも小さな花屋コーナーがあった。
そこにはすでに小分けに花束になったフリージアがあった。
スーパーのレジで花を購入するのも少し味気なかったけど、家内はフリージアを喜んでくれた。

その日から365日たったある日。そう、翌年のクリスマスイブ。
ひとつ歳を取ったボクは、やっぱり、年末業務に追われる営業マン。
その日が、クリスマスイブということはもちろんわかっていたけど、やはり目標数字めざし残業の日々。

夜 9時50分、地元駅到着。
よろよろのコートと緩めたネクタイのボクは、妻への花束を購入しようとスーパーに。
でも、ふと、昨年できたのあの花屋を思い出す。
「たぶん、フリージアはないかな?でも、もう一度、聞いてみようかな」と、ボクは1年ぶりにその花屋の入口に立つ。

「スミマセン」とボク。
「いらっしゃいませ」と相変わらず人のよさそうなご主人。
「フリージアはありますか?」

ボクとご主人の間にしばし緊張が走る。
そして、ご主人は満面の笑みを浮かべこう言った。

「フリージア、あります、ありますよ!」そして不思議そうに続けた。
「いやー、こういうことってあるんですね。フリージアってね、季節としては少し早いんですよ。でもね、今日市場で仕入れのとき、たまたま眼に入ったんですね。その時『フリージア入れよう!』って思ったんですよ。実はね、今日ってクリスマスじゃないですか?ちょうど、店だし始めたばかりの昨年のクリスマスにね、『フリージアありませんか?』って夜このくらいの時間に来たお客さんがいたんですよ。でね、フリージアがなくて、『申し訳ないことしたなっ』て思って。。。」

その人のいいご主人は、そこまで話してボクの顔をまじまじと見つめる。

「あれっ?もしかして、去年いらしたのって、お客さんじゃないですか?」
「はい。たぶんボクだと思います。妻がね、フリージア好きなんですよ。」
「よかった、本当によかった。本当にね、今日の朝、お客さんのこと思い出したんですよ!」
「ボクもね。なんとなくもう一度、来てみたんです。」
「よかった、よかった」とうれしそうに話すご主人。

それ以来、その人のよさそうなご主人は、毎年ボクと妻にフリージアと幸せを運ぶサンタクロースになりました。






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by cultemo | 2011-12-24 18:32 | つれづれ

翻訳とローカリゼーションの株式会社カルテモの 社長 内藤邦雄 が日々考えたことを語ります

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